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優雅に扇子をあおぐ大人の姿は、子どもの頃から記憶にのこる憧れの振る舞い。日差しが照り付ける夏に涼をとれるだけでなく、茶道や芸事、インテリアにまで取り入れられるユースフルアイテムです。多彩な絵柄は持ち手の個性を表現し、SDGsの観点からも近年再注目されている人気の夏ギフトです。
廉価なものから高級品までバリエーション豊富で、複数本もって使い分けたり、こだわりの一本を愛用する愉しみが広がる扇子。中でも「京扇子」は、細かい工程ごとに専門の職人が手作業で仕立て、一目瞭然の上質感と手に取る心地良さが格別です。今回は雅やかな京扇子の魅力に迫るとともに、季節やファッションに応じて選ぶセレクトポイントをご紹介します。
1823年から続く「京扇子」の老舗、宮脇賣扇庵
京扇子を語るうえで欠かせないお店が、1823年から続く扇子の老舗「宮脇賣扇庵(みやわきばいせんあん)」。初代当主が扇子屋の許可証を譲り受けて京都で創業。三代目と深い交流があった日本画家の富岡鉄斎により、「賣扇桜」という京の銘木にちなんで現在に至る屋号が名付けられました。
20余りの工程で87回職人の手を通る扇子作り
京扇子の製作工程は完全分業制。宮脇賣扇庵には約30人もの職人が在籍し、それぞれが専門的な技術をもって扇子づくりに力を注いでいます。ひとつの扇子を作り上げるには20余りの工程があり「87回職人の手を通る」とも言われるほど。各工程の職人から職人へと手渡されていくことも、昔からの伝統なのだそうです。
長さと厚さが均等に整えられた扇骨、心の琴線に触れる情景や図柄を描いたデザイン、手触り・開き具合・重さ・使い勝手など、まさに用と美が一体となった扇作り。それらの芸術的な繊細さは手仕事でしか生みだせないと感じる反面、機械仕立てのような精巧さに職人技の凄みを感じずにはいられません。
宮脇賣扇庵がしつらえる京扇子の魅力とは
宮脇賣扇庵が創りだす扇子の外見的な特徴は、京都本店に保管されている天井画や掛け軸などの美術品から着想を得たオリジナルの絵柄。また、手描きの扇面が多く、刷りでは表現できない独特の味わいを生みだしています。四季折々の風物詩や絵画など、端麗に描かれたモチーフはどれも活き活きと躍動感に溢れます。
扇の地紙に色引きをする際、顔料に銀を混ぜて高級感のある光沢が表現されている点も、宮脇賣扇庵の扇子ならではの特徴。銀を混ぜることによって、地紙の堅牢度も向上するのだと言います。
使い心地や美しいシルエットが優れていることは言うまでもありません。開閉時のパタパタっと小気味よい音色や滑らかな収まり、何よりも手にしたときに込み上げる高揚感は、確固たる技術と思想をもった匠の手仕事だからこそ成せる業でしょう。
扇子は表面の絵柄にばかり注目されがちですが、宮脇賣扇庵の扇子は裏面にもしっかりとワンポイントで絵柄が入れられているので、もれなくご刮目ください。
扇子ギフトを選ぶときのセレクトポイント
長寿祝いや敬老の日、母・父の日など様々なギフトシーンで贈られる扇子。夏の定番ギフトというイメージが強いものの、絵柄によって四季折々の季節感をもたせることができ、粋な贈り物として選ばれます。しかし、扇子に馴染みのない人にとってギフト選びは至難の業。そこで、宮脇賣扇庵の東京支店長・増渕氏に扇子ギフトのセレクトポイントを伺いました。
季節感を出すか、敢えて出さないか
「まずは、季節感のある絵柄か、そうでないかが印象を左右する大きな違いになります」と増渕氏は話します。季節感を出したい場合は、季節をわずかに先取りした絵柄を選んでみると、そのシーズンも長く使うことができるのでは、と提案してくださいました。女性用扇子は花柄が多いため、男性用扇子に比べて季節感を出しやすいそうです。
相手のファッションを考慮して選ぶ
「和装か洋装、どちらのお召し物が多いかを考慮して扇子のデザインを決めることもあります(増渕氏)」。特に、着物をお召しになる方にプレゼントするときは「間数(けんすう=骨の数)」が少ないものを選ぶことで、畳んだ状態で薄くなり帯に差しやすいのだそう。増渕氏が紹介してくださった扇子は端から端までが15間でした(少ないもので15間、多いと40間程度)。
一方で、もっぱら洋装の方に贈るのであれば、間数の多い扇子がおすすめだと言います。昭和の初期に考案された扇子は、洋装にも劣らないボリューム感とエレガンスさを兼ね備えたデザイン性をもちます。扇子をもつ人の服装によって間数を意識するとは、初心者では思いもしない目から鱗な選び方でした。
季節の「風物詩」という観点に着目する
誕生日プレゼントに贈るなら、相手が生まれた季節の風物詩や旬の食材、草花などで選んでみてはいかがでしょう。夏生まれなら花火大会・夏祭り・トマト・百合、冬生まれならクリスマス・大晦日・かぼちゃや柚子・ポインセチアや水仙など様変わりして面白いもの。他にもひな祭りや子供の日など、季節の行事を描いた絵柄も楽しいです。
女性用扇子に多い花柄ならば、花言葉を参考にする方法もあります。代表的な夏の花である朝顔は「愛情・明日もさわやかに」、冬に旬を迎えるポインセチアは「祝福する・幸運を祈る」など、相手の雰囲気にマッチする花言葉や隠れたメッセージを込めることができます。渡すタイミングで「こんな花言葉があるんだよ」と伝えてみてください。
宮脇賣扇庵での取材後、筆者自身が7月生まれの親族への扇子選びをさせていただきましたが、種々洋々な絵柄のデザインに目移りの連続。扇子ギフトを選びに訪問する前には、季節の風物詩や草花をチェックしてから臨むとひとつの目安になるかもしれません。
幸福を祈願する「縁起かつぎ」の絵柄
扇子自体が、先が栄える「末広がり」の形をなす縁起物として考えられます。そこで更に縁起の良い絵柄を選ぶことで、益々の縁起の良さを含ませることができます。たとえば、六瓢(むびょう)のひとつに数えられる瓢箪は、魔除けや無病息災の縁起物であり、願い事が成就すると言われる幸運の柄。長寿祝いにふさわしい贈り物になりそうです。
他にも、扇子と同じように末広がりの形をした富士山も、「不死」や「無事」に通じることから健康長寿や家内安全を願う縁起物。円が連鎖して繋がる七宝柄にも、人との縁や仕事や財産の繋がりを感じさせる円満・調和の意味合いがあります。特に意味のあるメッセージを込めたいシーンで、関連性のある図柄を選んでみてはいかがでしょう。
宮脇賣扇庵でおすすめしたい相手想いな扇子ギフト
お中元やお歳暮としても利用されているという宮脇賣扇庵の扇子ギフト。扇子は茶道や舞踊を嗜む人だけでなく、幅広い世代や性別に対応できる懐の深い贈り物です。ここでは、筆者がおすすめしたい宮脇賣扇庵の扇子ギフトをピックアップしてご紹介します。
布袋がセットになったオリジナル扇子
持ち物をバッグに詰め込んで持ち歩く女性ならではの配慮として、布袋がセットになった扇子をおすすめします。扇子と同じ絵柄の刺繍が入った扇子袋は宮脇賣扇庵オリジナル。扇子と扇子袋がセットになって税込5,500円と値段感も丁度よく感じます。これなら扇子の形を崩すことなく収納できるので嬉しいですね。
とにかくカッコよさを追求した逸品
男性に扇子を贈るならダンディズムを意識したいところ。柿渋を塗った扇子は深みのある色合いがラインナップされ、どっしり構えた大人の風格を感じさせます。最も長いものは、江戸時代の侍が帯していたと言う1尺(30cm)の扇子。それを使いやすく短くした扇子も用意されています。
巨匠画伯によって描かれた天井画をモチーフにした扇子は、宮脇賣扇庵でしか手に入らない迫力のある逸品です。丁寧に型刷りされ、細やかな木目まで精巧に表現されている点が、大胆にして繊細な調和のとれた存在感を放ちます。職場やサークル活動で仰いでいると一際注目を集めそうです。
桜や富士山など、日本の伝統的な絵柄
海外出身の方への日本土産やプレゼントには、日本らしさを感じられる桜や富士山の絵柄が描かれた扇子をチョイス。宮脇賣扇庵に訪れる外国人観光客が実際に購入する中でも特に人気の絵柄で、扇子を飾るためのスタンドも併せて購入されることが多いそうです。
特別感が生まれるオンリーワンの扇子
宮脇賣扇庵では、創立記念の法人ギフトや婚礼の記念品として、オーダーメイド扇子をつくることができます。また、既製の扇子に名入れを施すことで特別感をプラスするサービスも用意されています。
名入れする場所は親骨や扇面から選べ、完成までに2週間ほど要し蒔絵にて名入れが施されます(1文字600円)。商売を営む方の中には、お中元の折にお客様の名前を入れて贈ることもあるそうで、何とも真似してみたい粋な贈り方です。
おわりに
上等上等な使い心地と躍動感あふれる描画が、古今東西の人々を魅了してやまない宮脇賣扇庵の京扇子。手元に収まるサイズ感でありながらも確かな存在感を印象づける扇子は、やはりギフト向きだと感じます。涼しげで気取りすぎない粋な伝統工芸品のプレゼントを、とっておきのギフトシーンで贈ってみてくださいね。