あなたは知人宅に訪問したときに、お茶を出されておもてなしを受けたことはありますか? 日本人にとってお茶は、おもてなしの気持ちを象徴するひとつの形式であり文化でもあります。ここでは、知人の来訪時におけるお茶出しのマナー・作法についてご紹介します。
形式を重視し過ぎるおもてなしは、逆に相手を緊張させてしまう可能性も秘めています。しかし、基本的なお茶出しマナーを一通り知っておくことで、来客の相手に応じてアレンジを利かせることができ、大人として恥ずかしくない応対力を身につけることができます。
目次
おもてなしの心を表現するお茶出し
知人が自宅に来訪するとき、日本人らしいおもてなしの心を表現する方法のひとつに「お茶出し」があります。お茶は、古くは奈良・平安時代に遣唐使らによって中国からもたらされたといわれていて、室町・安土桃山時代には千利休に代表される茶人らが武士や商人に「茶の湯」と呼ばれる茶会を広め、江戸時代になると一般庶民にも飲料として浸透するようになりました。
お茶出しでおもてなしを表現するようになったのは、やはり千利休が「利休七則」と呼ばれる教えを説いたことに起因するといわれています。これには、客人をもてなすための心持ちや配慮が記されていて、当時築かれた礎が現代の日本的文化につながる根底になっていることを推し量ることができます。
難しいお茶文化の遍歴はさておき、屋外を歩いてきたお客様の喉を潤すお茶は、いつの時代もどんな人にとっても嬉しい心遣いとなります。また、お茶(緑茶)に含まれるカテキンは、抗酸化・殺菌作用や脱臭作用(口臭予防)をもち、カフェインは眠気覚まし、テアニンはリラックス効果が期待できるため、訪れた客人と談笑するときに摂取する飲料として理にかなっているといえます。
緑茶・紅茶・コーヒーの違いとは?
自宅に来訪したお客様にお茶を出すとき、日本茶(緑茶)にするか、それとも紅茶やコーヒーを淹れるか、悩んだ経験はありませんか? 原則的には、緑茶・紅茶・コーヒーのどれであっても問題ないとされていますが、ここではそれらの違いについて考えてみることにします。
緑茶・紅茶・コーヒーにそれぞれ共通する成分はカフェインです。カフェインは、集中力を高めたり眠気覚ましの効果があるとされますが、過剰摂取は健康への悪影響が懸念されています。特に、妊娠中や授乳中の人に対しては胎児への影響があるため、ノンカフェインの麦茶やルイボスティー、ローカフェインのデカフェなどを提供するようにしましょう。逆に、食事後の昼下がりなどには最もカフェイン含有量の多いコーヒーが眠気覚ましになって良いでしょう。
緑茶・紅茶・コーヒーの特に大きな違いは、緑茶や紅茶の原料は茶葉であり、コーヒーは豆(果実)から挽いたものであるといえます。コーヒーは、豆の微粒子が舌や歯に付着したままになると、口の中で細菌が繁殖しやすく、これが口臭の原因になるといわれています。逆に、緑茶や紅茶に含まれるカテキンには殺菌作用や脱臭効果があるため、特にこだわりがある場合を除いて、緑茶や紅茶を出すのが無難かもしれません。
また、特徴的な違いとしては、紅茶やコーヒーには人によって砂糖やミルクを入れますが、緑茶には何も混ぜないことが一般的です。砂糖やミルクはそれだけでカロリー摂取量が一段と増加し、少なからず満腹感を与えます。すなわち、食事の直前であれば緑茶が軽めで飲みやすく、ダイエットしている人にもおすすめです。ただし、砂糖やミルクを入れないのであれば、それぞれカロリーに大差はありません。
もてなす側(ホスト)の都合としては、賞味期限の違いを考慮しておく必要があります。一般論となりますが、コーヒーは焙煎後1ヶ月を過ぎると風味が損なわれるといわれていて、緑茶は開封後1年程度、紅茶は2年程度の賞味期限といわれています。日常的に自宅で消費していて新しいものを入れ替えているのであれば、それを出すのが望ましいですが、客人用に取り置いておくのならば紅茶がベターかもしれません。
来客に備えて用意しておくもの
あなたの家には、いつお客様が来てもお茶出し対応できる環境が整っていますでしょうか? ここでは、来客に備えて事前に用意しておくと便利なものを、緑茶・紅茶・コーヒーに分けてご紹介します。可能であれば、それぞれ一式をあらかじめ揃えておくと、突然の来客であっても即座に対応でき、双方が気持ちよく過ごせるでしょう。
「緑茶(煎茶)」を入れるために最低限必要となる道具は、茶葉、茶さじ(スプーンでも代替可)、急須、湯呑です。急須はガラス製のものでも良いですが、茶葉をしっかりと漉せるように、網目状の茶こしが付いたものを選ぶようにします。また、湯呑をのせる
「紅茶」を入れるときは、ティーバッグであればティーカップとソーサーがあれば問題ありません。茶葉から抽出するリーフティーの場合は、ティーカップとソーサーの他に、茶こしが付いたティーポットかティーストレーナー(茶こし)、ティーメジャー(茶葉を測るスプーン)が必要となります。また、お客様にお出しする際には、砂糖やミルク(ミルク入れ)、ティースプーンがあると良いでしょう。
「コーヒー」を入れるときは、豆から挽くドリップコーヒーか粉末タイプのインスタントコーヒーかで必要ない道具が違います。インスタントコーヒーの場合は、コーヒーカップ(カップによってはソーサー付き)があれば事足ります。ドリップコーヒーの場合は、豆を粉砕するコーヒーミル、コーヒーを抽出するためのコーヒードリッパーとコーヒーフィルター、抽出したコーヒーを注ぐコーヒーサーバー、ドリッパーにお湯を注ぐドリップポットが必要となります。また、紅茶と同様に砂糖やミルクを使う場合はティースプーンがあると良いでしょう。
お茶菓子(お茶ウケ)については賞味期限が短いものが多いため、突然の来客に備えて常に補充するものではありませんが、和菓子用の
お茶を出すタイミング
来客時にお茶を出すタイミングとしては、基本的にはすぐにお出しすることがマナーとされています。特に、お客様を一人で対応する場合、話が盛り上がってからお茶の準備をすると、途中退席で話の腰を折ってしまうため、お客様の上着や荷物を預かって客間に案内し、簡単な挨拶をしてから、お茶の準備に取り掛かるようにしましょう。
ただし、お客様が自宅に上がる前にお茶を入れて、来客と同時にお茶を出してしまうことは避けましょう。自宅にいると準備万端で出迎えることができますが、夏の暑い日などでは、外から来たお客様は汗を拭いたり息を整えたりする時間が欲しくなります。おもてなしには、こういった余裕が相手への思いやりとなるため注意が必要です。
二杯目のお茶を出すタイミングは、およそ30分後を目安にすることが一般的ですが、お客様のお茶が空になったタイミングでお伺いをたてると良いでしょう。原則的には、急須やティーポットをテーブルの上に置いて、いつでも注ぎ足せるようにすることはマナー違反で、旧知の仲でない限りは二杯目でも必ずキッチンでお茶を注いでからお出しするようにしましょう。
また、気になるポイントとしては、お客様が持参した手土産(おもたせ)をその場で提供するかどうか。旧来はおもたせ(頂きもの)を仏壇にお供えする習慣がありましたが、現代ではおもたせでもホスト側で用意したお菓子でもどちらでも良いでしょう。大事なことは、お客様がその場で開けることを前提にしているかどうかで、旬の食べ物だったり賞味期限が短いものの場合は、おもたせを出すのが良いかもしれません。おもたせを出す場合は「おもたせで失礼ですが」と一言添えるようにしましょう。
基本的なお茶の出し方
お茶の出し方は、お客様の右側から出すことがマナーとなります。お茶と同時にお茶菓子(お茶ウケ)を提供する場合は、先にお茶菓子を出し、その後にお茶を出す順番となります。お茶を入れるときは、玉露など上質なお茶は60~70℃の熱くないお湯、一般的な茶葉は90℃ほどの熱いお湯で入れると良いでしょう。
お茶は必ずキッチンで湯呑茶碗に注ぎ入れ(あれば蓋をする)、茶托にはのせずにそれぞれお盆にのせて、胸の高さで客間まで持っていきます。このときに、乾いた清潔な布巾も一緒にお盆にのせて持っていくと便利です。また、お茶菓子を用意している場合も同じお盆にのせます。
お茶一式をのせたお盆を持って客間に着いたら、お客様の右側に回り、テーブルにお盆をそのまま仮置きします。出し方の順番は、まずお茶菓子をお客様から見て左側(つまり自分から見て奥)に置きます。そして、湯呑茶碗の
紅茶やコーヒーの場合も順番や置き場所は同じですが、カップソーサーの手前にはティースプーンを置きます。カップの持ち手の向きはどちらでも問題ないとされていますが、お茶菓子が右側にある場合はカップの持ち手が右に向いていると美しく見えるかもしれません。
お茶に関して披露したい豆知識
おもてなしは、基本的なマナーや作法だけを身につけても満足するものではありません。お客様に快適に過ごしてもらえる環境作りや話題の提供なども大事な要因となります。特に、会話が途切れてしまうようなケースでは、天気やニュースの話で糸口を見出すことが一般的ですが、折角の機会なのでお茶に関する面白い豆知識を披露してみてはいかがでしょうか。
ティーカップを乗せるソーサーの由来
紅茶やコーヒーを入れるティーカップには、必ずといっていいほどカップソーサーがセットになっていることを疑問に感じた経験はありませんか? 実はカップソーサーにも歴史的な経緯と役割があり、それを会話のネタとしてお客様に披露してみても面白いかもしれません。
お茶(紅茶)文化は、17世紀に中国から(鎖国時代までは日本を経由して)ヨーロッパに伝わったといわれています。しかし、当時はティーポットの輸入がポルトガルに独占されていたため、オランダやイギリスなど他の欧州各国には、一部の貴族を除いてティーボウル(茶碗)しか輸入されなかったといいます。
それにより、直接ティーボウルに茶葉を入れてお湯を注ぎ、そのまま飲むというシンプルな方法が定着しましたが、茶葉が口に入り込んでしまう問題が発生します。そこで、料理を盛るお皿にティーボウルから茶葉が入らないようにゆっくりと移し替えることを解決策にし、それがソーサーの由来になったといわれています。つまり、カップはポット代わりで、ソーサーがカップの役割を担っていました。
したがって、旧来のカップソーサーは若干の深さがある形状でしたが、20世紀に入り自由貿易が盛んになってティーポットが流通してからは、カップソーサーの役割はお茶が溢れてしまったときの受け皿として、また、ティースプーンやお茶菓子を置くためのお皿として使われるようになり、次第に深さがなくなって現代の平らな形状になったといわれています。
お茶に浮いているホコリのようなものの正体
緑茶などのお茶を入れたとき、その水面にホコリのようなものが浮いていると感じたことはありませんか? 新茶であれば、それは毛茸(もうじ・もうじょう)と呼ばれる茶葉の “産毛” かもしれません。
毛茸は、お茶の新芽を守る産毛のようなものであり、葉が成長して硬くなっていくと次第に無くなっていきます。したがって、お茶に毛茸が浮かぶということは、旨味の濃い新芽が多く使われた品質の高いお茶であるともいえます。
新茶であれば必ず毛茸が浮かぶわけではありませんが、ホコリと思っていたものが実は美味しいお茶の印であるかもしれません。新茶の時期に緑茶を飲む機会があれば、注意して毛茸を見つけてみてくださいね。
おすすめのお茶専門ショップ
緑茶や紅茶、コーヒーなどのお茶は日本人にとって非常に身近で、コンビニやスーパーで手軽に入手できるものです。しかし、お客様にお出しするお茶は、こだわっていいものを揃えたいという気持ちがあありますよね。ここでは、東京都内で購入できるおすすめのお茶専門ショップをご紹介しますので、是非とも一度試してみてください。
NAKAMURA TEA LIFE STORE(蔵前)
都営浅草線の蔵前駅から徒歩3分。国際通りを一本路地に入ったところにある、紺色の暖簾が掛かったお店が、日本茶専門店の「NAKAMURA TEA LIFE STORE(ナカムラティーライフストア)」です。
NAKAMURA TEA LIFE STOREで販売されている茶葉は、お茶処の静岡県藤枝市で創業100年となる中村家茶園が、約30年前から取り組んできた無農薬有機栽培農法によって、お茶本来の味を損ねることなく栽培・収穫しています。
おしゃれななお茶缶は、幅広い世代に日本茶を受け入れてもらいたい、という想いが込められたデザイン。それぞれの茶葉の栽培方法や産地をイメージしたラベルの色味と、銀色に輝く缶が非常にマッチしています。伝統のあるお茶屋が打ち出す「スタイリッシュ・美味しい・安心」のお茶を、是非とも味わってみてください。
TEAPOND(清澄白河)
清澄白河駅を出て清澄通り沿いを歩くこと2分、木々が生い茂る清澄庭園をのぞむ[深川資料館通り]の入り口に、ヨーロピアンな外観の店舗が現れます。こちらが、世界中から厳選された茶葉を取り扱う紅茶専門店「TEAPOND(ティーポンド)」です。
外観はまるで異国のアンティークショップのような佇まい。おしゃれな引き戸の扉を開けると、”ヨーロッパの薬局屋” をイメージした大きな薬棚のようなディスプレイが目に留まります。そして、陳列棚に積み上げられた紅茶缶の前には、薬瓶のような透明な容器が並べられ、様々な種類の紅茶葉を一つ一つを試すことができます。
スタイリッシュな茶缶やギフト用の包装も、TEAPONDだけのオリジナルデザイン。清澄白河に構える紅茶専門店で、未だ感じたことのない紅茶の美味しさを是非とも味わいに来てください。きっと日々の “TEALIFE” がより素晴らしいものになるはずです。
NEWE(乃木坂)
東京メトロ千代田線の乃木坂駅から歩いて2分ほどのところ。外苑東通りの脇にある石畳の小道を奥に進むと、パリ街の一角に迷い込んだかのような、蔦で壁面を覆われたマンションビルが現れます。2階に上ると見えてくる赤い扉のお店が、ハーブブレンド茶を中心に取り扱う、日本茶専門ブランド「NEWE(ニュー)」です。
落ち着いた色味のトーンでまとめられた「NEWE」の店内は、特徴的なパッケージが引き立つように考えられたインテリアデザイン。天井から吊り下げられた白熱灯も、温もりある雰囲気を演出しています。その日おすすめのお茶を試飲して、香りを愉しみながらゆっくり選んでもらいたいという想いから、乃木坂店はショールームとしても活用できる造りに仕上がっています。
ハーブブレンド茶は、お湯を注いだ瞬間からハーブ、花、スパイスの芳醇な香りが立ち上り、身体がふっと緩みます。美術館の中を回廊するようにハーブブレンド茶をチョイスできる、おしゃれな日本茶専門店「NEWE」。華やかなだけでなく、素材や製法にもこだわった、身体に優しく安全な緑茶を求めて乃木坂まで足を延ばしてみてはいかがでしょうか。
LIGHT UP COFFEE(吉祥寺)
吉祥寺の西エリアに位置する、レンガが敷き詰められた約540mの中道通りを奥へと突き進んだところ、吉祥寺西公園の目前に鮮やかなシアンブルーが目印のお店があります。そこが、自家焙煎珈琲ショップ「LIGHT UP COFFEE(ライトアップコーヒー)」です。
LIGHT UP COFFEEは、白の壁面を基調とした爽やかな雰囲気が特徴的。おしゃれな店内にそよ風が吹き込み、公園の緑が揺らぐのを見ながら落ち着いた空間を味わうことができます。カップや扉の枠などの色はシアンブルーで統一され、芸術学科を出たというオーナーバリスタのセンスが光ります。
「農作物としてコーヒーを扱い、産地や作り手による素材の味を楽しむ新しいコーヒー文化を伝えたい」という理念を持つ新進気鋭のコーヒーショップは、コーヒーを丁寧に淹れるだけでなく、苦みや香りだけでは語ることのできないコーヒーの魅力を日々追究しています。フルーティーな果実としてのコーヒーを味わいに、吉祥寺を訪れてみてはいかがでしょうか。
本記事では、お茶出しのマナーから、お茶に関する豆知識までを幅広くご紹介してきましたが、役に立つ情報はありましたでしょうか? 来客時のおもてなしで大きな役割を担うお茶出しは、その作法によって心遣いが色濃く表れるものです。これを機に、改めてお茶出しの重要性を認識し、基本的なマナーを身につけてみてください。
これからも、贈答マナーに関する、皆様の疑問を解決していきます。「これってどうすればいいの?」という疑問も大募集していますので、ご遠慮なくお問い合わせフォームからご連絡ください。