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あなたは「乃木坂」と聞けば、まず何を思い浮かべますか? いの一番に某アイドルグループが思い浮かぶ人は、時代感覚として多いのではないでしょうか。かく言う筆者も名前は知っていながら、地名としての乃木坂のことはほとんど知りませんでした。
東京都心部へのアクセスが良く、代々木上原や表参道などオシャレな街が連なる東京メトロ千代田線の沿線にある乃木坂駅。北は青山一丁目、南は六本木、西は南青山、東は赤坂と、日本を代表するファッションタウンに囲まれます。今回はそんな乃木坂の史跡や人気スポットを巡り、その現状を明らかにしていきます。
この日は台風一過の爽やかな晴天で、絶好のまち歩き日和。秋の訪れをしみじみと感じさせる、気持ちのよい風が吹き抜けます。開始時刻は、朝のラッシュアワーを過ぎた午前10時に差しかかる頃。乃木坂駅の青山霊園方面改札6番出口から散策をスタートします。
① 国立新美術館
美術館直通の乃木坂駅6番出口から「国立新美術館(THE NATIONAL ART CENTER, TOKYO)」には、開館から程ない10時過ぎに向かいます。日本で5館目の国立美術館として、2007年1月に開館した国立新美術館。連絡通路を抜けて入館すると、吹き抜けのロビーを陽光が優しく照らします。
本日の目当ては、国際的に大きな注目を集めてきた「もの派」を代用する美術家・李禹煥(Lee Ufan)氏の回顧展「国立新美術館開館15周年記念 李禹煥」。素材をありのままに用いるダイナミックさと空間の広がりがすべてアートになる、荘厳な佇まいの作品たちに圧倒されます。
展示物には説明書きがないため、初回の観覧では音声ガイドの利用を強くお勧めします。作品の制作過程や表現の真意に気づいたとき、思いがけず心を惹かれ虜になっていることでしょう。「李禹煥展」は、2022年8月10日(水)~11月7日(月)までの開催です。
1時間ほどで観覧を終えると、エントランスカフェ「COQUILLE(コキーユ)」では席で本を読む人、お喋りに花を咲かせる人で賑わいをみせていました。次なる目的地に向かうべく正面エントランスから外に出ると、黒川紀章氏が設計したという波打つガラスの壁が描く、曲線建築の美しい外観全様が露わになります。
建物の正面に円で囲まれた空間がありますが、こちらも展示スペースなので見逃しがないよう要チェックです。
国立新美術館では、国内最大級の展示スペースを生かし、多彩な展覧会や講演会の開催、アート好きには堪らないミュージアムショップなどが展開されているため、目的の展示会がなくてもフラリと立ち寄って楽しめます。
② シェアグリーン南青山
国立新美術館の西門を出て、環状三号線を横目に北へと7分ほど歩くと、右手に「シェアグリーン南青山」の看板が現れます。シェアグリーン南青山は、大都会の中に緑・広場・カフェ・ショップ・オフィスが渾然一体となった緑豊かな空間を成し、新たなコミュニケーションを生むことをコンセプトに掲げる都会のオアシスです。こちらで少し足休めをしてみましょう。
あおいちマルシェ
水曜日と日曜日に開催される「あおいちマルシェ」は、新鮮な野菜・果物・加工品とともにキッチンカーが居並びます。浮き立つような高揚感を得ながら癒しを感じられるマルシェは、ミニドッグランが設置できる広い敷地で賑やかに開催されているようです。様々な地域からお店が集まるため、出品もバリエーション豊かで見飽きません。
この日マルシェに出店していた「大山園」の千葉県鎌ヶ谷産の梨・新高、そして米粉の焼き菓子屋「Arti」でコーヒーバックをお土産に購入。
大山園は、夏から秋にかけて梨を販売している農家さんで、この日に並んでいた新高はとにかく大きく、一般的な梨の1.5倍の重さはあろうかと感じるほど。食べてみると瑞々しく、甘みはあっさりしていても味がしっかり感じられるとても美味しい梨でした。
Arti は、新潟県産の米粉を使ったグルテンフリーの焼き菓子を通信販売やマルシェなどで販売するお店。購入したコーヒーバックは、コーヒードリッパーを持っていない人にピッタリで、簡単に本格的なコーヒーを飲むことができます。水出しもできるとのことで、気候やその時々の気分に合わせていただけます。
どちらも身近な場所では見かけることのない一品で、マルシェならでは一期一会の素敵な出逢いを楽しむことができました。
Little Darling Coffee Roasters
あおいちマルシェの奥に進むと、突如として緑に囲まれた広場が現れます。広場には子供連れの家族やワンちゃんを散歩させる人、パソコンで仕事をしている人などが皆ノビノビと過ごしていて、この地が住民の憩いの場として根付いていることを感じさせられます。
この広場の正面左には、ガラス張りの広々とした内装にテラスが付いた「Little Darling Coffee Roasters(リトル ダーリン コーヒー ロースターズ)」というカフェがありました。時刻はちょうど12時前、いい具合にお腹がすいていたのでランチといきましょう。
店内はインダストリアルなデザインで、大きな窓から差しこむ陽光とグリーンが、開放感があって落ち着いた空間を演出しています。メニューはこだわりのスペシャリティコーヒーが豊富で、フードはワンハンドメニューが多め。仕事をしながらでも食べやすいようにと配慮されています。
筆者はエスプレッソコーヒーにミルクをたっぷり注いだ「フラットホワイト」と、スモークチキンをバンで挟み、その上にキャロットラペとスパイスを乗せた「スモークチキンドッグ」をオーダー。食べごたえがありつつも、酸味とスパイス感が絶妙であっさり食べられます。12時を過ぎると辺りは賑わいを増し、店内や広場で食事をする人が憩っていました。
SOLSO PARK/ALL GOOD FLOWERS
食事を終え、隣のファームマーケット「SOLSO PARK(ソルソパーク)」を覗いてみます。たくさんの花や大木に囲まれたショップは心が穏やかになります。インドア・アウトドアグリーンを中心に取り扱っていて、初めて見るような植物も多く並びます。色とりどりの植物の中から、自宅用、そしてギフト用途にも適した一品が見つかりそうです。
併設の「ALL GOOD FLOWERS(オールグッドフラワーズ)」では、切り花の販売も行なっています。絢爛たる花々が揃えられているため、いつもより少しパンチの効いたお花を用意したいときにおすすめです。
③ 桂由美ブライダルハウス
シェアグリーン南青山を後にし、東に向かって路地を進むと外苑東通りに突き当たります。そのまま外苑東通りを六本木方面に2分ほど歩くと、白基調の教会をイメージさせる「桂由美ブライダルハウス」が目前に現れてきます。
こちらは一棟まるごとがブライダルショップになっていて、ショウウィンドウには女性なら誰もが一度は憧れる純白のウエディングドレスが飾ってあります。1階にはカフェがあるため、ドレスを着る予定がなくてもユミカツラの世界観をゆっくりと味わうことができます。
④ TOTOギャラリー・間
桂由美ブライダルハウスの程近くには、トイレと言えば真っ先に名前の挙がるTOTOが運営する「TOTOギャラリー・間」があります。建築とデザインの専門ギャラリーで、国内外の建築家の展覧会を開催しています。展示スペースそのものが作品となるユニークな展示方法で、独特な空間を表現しています。
⑤ 乃木神社(旧乃木邸/乃木公園)
外苑東通りをやや北に戻ると、乃木坂の地名の由来となった乃木将軍がかつて住んだ「旧乃木邸」があります。こちらは「乃木神社」境内にある施設で、隣接する「乃木公園」も同じく乃木神社の一部となっています。
旧乃木邸は、日清・日露の両戦役に従事し、明治天皇崩御とともに殉死された陸軍大将「乃木希典」御夫妻の邸宅です。明治35年に新築されたもので、設計は乃木大将がドイツ留学中に見たフランス連隊本部を参考にしたため、明治期の建築には珍しい和洋折衷建築となっています。
邸内は文化財保護の観点から原則非公開となっていて、年に3回ほど公に一般公開しているようです。通常時でも、外観や馬小屋、庭園などを楽しむことができます。邸宅の外観から漂う上品な雰囲気に、いつか内装も拝観したいと思いつつその場を後にします。
旧乃木邸の庭園を抜けると「乃木神社」が見えてきます。乃木神社は乃木夫妻が殉死したのち、同志が集まって小社を建て、夫妻の御霊をお祀りしたものと言われています。ご祭神は乃木夫妻の人柄から、文武両道、または夫婦和合の神として祀られていて、訪れる人々は学業成就や家庭円満などを願いに訪れるようです。
⑥ 乃木坂(幽霊坂)
古くは幽霊坂と呼ばれていた乃木坂は、乃木神社から正対の位置にあります。乃木夫妻の殉死後は、御夫妻の忠誠心に感激した国民がこぞって葬儀に訪れたと言います。
葬儀に訪れた人々はこの坂を通り弔ったのでしょうか。その時分、幽霊坂は「乃木坂」と名を改めたそうです。土地に名前が付き、現代に至るまでご祭神として祀られる乃木御夫妻は、きっと人格者だったのだろうと故人の人柄に思いを馳せるのでした。
⑦ アリエル&ウィッチムーン/Princess MINIMO
ジャニーズ事務所を横目に乃木坂を上り、ふたたび外苑東通り沿いを歩くと、程なくして可愛らしい外観のショップが現れます。こちらのお店はフラワーショップ「アリエル&ウィッチムーン」と、ペットグッズ「Princess MINIMO(プリンセスミニモ)」の合同店舗。可愛らしいアイテムが詰めこまれた素敵なお店です。
ペットグッズの「Princess MINIMO」で気になるものを見つけました。ギターアンプを模した爪とぎや、マイクがプリントされたマタタビ入りのキャットトイなど、ロックンロール好きで猫ちゃんを飼っている人なら垂涎もの。筆者が猫ちゃんをお家に迎え入れた暁には、まずここに訪れようと決心したのでした。
⑧ 512 CAFE&GRILL
外苑東通りをさらに南へ進むと、ミッドタウン・ガーデンの手前に「512 CAFE&GRILL(ゴーイチニカフェアンドグリル)」の看板が見えてきます。この看板がある路地に入り、2分ほど歩くとお店に到着です。この日は天気が良かったのでオープンテラスに座ります。
ドリンクメニューは体にやさしい素材のものが多く、健康に気を遣っている人におすすめ。フードメニューには好物のパンケーキが豊富で食欲をそそられましたが、ここはグッと堪えてハーブブレンドティーのビューティーブレンドを注文。ラベンダーやローズが香り、ベリーのほのかな甘みと酸味が心も体もスッキリとほぐしてくれます。
木漏れ日で照らされたオープンテラスには、ワンちゃん連れがまったりと昼下がりを過ごしていました。ミッドタウン・ガーデンや檜町公園に隣接していることもあり、休日のお散歩がてら訪れ一息ついていくのもいいですね。
⑨ 21_21 DESIGN SIGHT
512 CAFE&GRILL の正面は、東京ミッドタウン敷地内のオープンスペース「ミッドタウン・ガーデン」になっています。六本木駅に程近いグリーンパークは、檜町公園とともに六本木のオアシスとして知られ、ワンちゃんの散歩はもちろん、待ち合わせや休憩のために利用するビジネスマンも多くみられました。緑に囲まれた園内にはアートが散りばめられ、お子さん連れにもぴったりです。
園内には「21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)」があります。デザインとアートを通じて日常を改めて目を向け、様々な提案と発信を行っていくための活動拠点。展覧会を中心にトークイベントやワークショップも行なわれているので、興味のあるイベントをお見逃しなく。
>⑩ 東京ミッドタウン
ミッドタウン・ガーデンの隣は「東京ミッドタウン」。六本木駅直結の複合施設には、下層にショップ&レストランやビルボードライブ東京、上層に5つ星ホテルのザ・リッツ・カールトン東京が入っています。
東京ミッドタウンには国内外選りすぐりのお店が集結し、施設内で一日中楽しめるほど。外国の方が多く訪れ住まう六本木だからこそ、伝統的な日本らしいものを多く取り扱っているのが特徴的です。今回は、インテリア&デザインのお店が軒を連ねる3階のショップフロアを中心にご紹介します。
WISE・WISE tools
国内の伝統工芸や文化をもとに、丁寧につくられた暮らしの道具を取り揃え、長く使い続けたいと思わせる日用品を提案するショップ。作りのいい道具が見直される昨今、生活に豊かさを取り入れたいと思う方は、ぜひ一度訪れてみてください。この日は珈琲の薫り展が開催され、コーヒーにまつわるキャニスターやマグカップが並んでいました。
THE COVER NIPPON
筆者イチオシのお店で、国内の伝統工芸品や骨董品が広々とした店内に所狭しと並べられています。素材はガラス・陶器・焼き物・金属など種々洋々。色彩豊かに衣食住を彩る道具のラインナップが特徴で、ひとつテーブルに添えるだけで日常を華やかにしてくれます。
写真のマットは金糸や銀糸を樹脂で固められたもので、使い方はテーブルランナーやランチョンマットなど思いのままに。着物の帯布があしらわれていて、ほのかに和を感じさせる素敵なワンポイントです。汚れたら水洗いできるとのことで、使い勝手がいいのも嬉しいですね。
日本橋 木屋
スマイルレーベルの記事でも度々取り上げられている「日本橋 木屋(にほんばし きや)」。包丁や刃物を中心とした調理道具や理美容アイテムを豊富に取り扱っています。丁寧な暮らしを心掛けたいとき、木屋を訪れば名品に出逢えること間違いありません。
⑪ 覚王山フルーツ大福 弁才天
東京ミッドタウンを出て、外苑東通りを対向に渡ったところにあるお店が、愛知県名古屋市の覚王山に本店を構える「覚王山フルーツ大福 弁才天(べんざいてん)」です。そのまま食べても十分に美味しい季節の果物を、贅沢に白餡と求肥で包んだフルーツ大福。ジューシーでゴロっとしたフルーツに溺れてしまいそうな大福は、他では味わえません。
持ち帰ってから切って食べられるよう、餅切り糸が付いてきますが、食べる前に断面を見るのをお忘れなく。フルーツ大福は味だけでなく「萌断」にも注目で、フルーツの美しい断面がこの時初めて露わになるのです。来客時にお茶請けとして出せば華やかで、場の雰囲気を和らげてくれます。
⑫ 六本木天祖神社(龍土神明宮)
弁才天の店舗から脇道に入り、そのまま進んでゆくとビルの合間に突如として神社が現れます。この「六本木天祖神社(龍土神明宮)」は、天照大御神・伊邪那岐命・伊邪那美命が祀られていて、南北朝時代の至徳元年(1384年)に創建されたもの。商売繁盛や技芸上達などを祈って、古くは武家や商人からの信奉も篤く、「六本木7-7-7」の住所に鎮座する、とても縁起の良い神社として親しまれています。
おわりに
これまで名前しか知ることのなかった「乃木坂」の実態は、高層ビル群の中に緑が生い茂る、憩いと癒しのスポットが目白押しでした。お洒落でいて気取りすぎず、都会ならではの息苦しさを感じさせないため、人混みが苦手な人にもおすすめです。美術館も点在しているので、心穏やかに過ごしたい休日にピッタリ。気になるスポットがあれば、ぜひ足を運んでみてください。
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