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プレゼントのマナーでしばしば論争を引き起こす「お茶」の贈り物。縁起が悪い品物なので避けるべきという話も耳にすることがあると思います。果たして本当にタブー視されるべきなのか、解釈次第で気にする必要はないのか、念のため知っておきたいですよね。
実のところ、お茶は縁起がいい意味合いも持っていて、婚礼行事や長寿をねがうお祝い事でも贈り物に活用できるオールラウンダー。古来の慣習を大切にしたい場面もありますが、建前から本音にシフトする現代では本質的な理由でプレゼントを選ぶことが流儀です。
この記事では、そもそもお茶の贈り物がタブーだと言われる理由を解説したうえで、逆に贈り物にふさわしいポジティブな一面をご紹介。お茶の贈り物が適しているおすすめのシーンを提案しながら、お茶のタブーを解消する方法についても触れていきます。
1.お茶の贈り物がタブーだと言われる理由
お茶の贈り物がタブーとされる、明確な理由はあるのでしょうか。過去にテレビ番組で「緑茶はお祝いのお返しに贈ってはいけない」というマナー講師のコメントが炎上したこともあり世間一般に認められていないようですが、少しばかり真相を探っていきます。
香典返しや葬儀の手土産に用いられてきた
お茶の贈り物を避けるべき説得力のある理由として、調べた限りではふたつ。お葬式など弔事でよく用いられることから、縁起の悪い贈り物として認識されることがあるようです。
この世とあの世を区切る境界
日本では昔、所有する土地(敷地)の境目に茶の木を植えることがあり、それが垣根の役割を果たしていたそうです。そのため、お茶が「境界」としての意味をもつようになり、それが転じて「この世とあの世の境界として、故人と別れを区切る」ために香典返しで利用されていた、ということです。
準備ができないときの手土産
一般的には四十九日が過ぎた後に香典返しを贈ることが通例ですが、通夜や葬儀に参列する人たちに会葬御礼として手土産を渡すことがあります。昔は今のように品物をすぐに準備できるインフラが整っていなかったため、どの家庭でも大抵置いてあったお茶を渡していたそう。そのため、お茶は弔事用の贈り物というイメージが付いたということです。
相手によっては失礼・非常識と思われてしまう
私たち自身が親世代の習慣や考え方に影響されることがあるように、年配の方はさらに上の世代から受け継いで定着した思想があります。前述のように、弔事のシーンでよく目の当たりにしていたお茶を、慶事などの一般的な贈り物として使うことに多少抵抗があっても不思議ではありません。
地域性や親族間での常識として根付いていることもあるでしょう。さまざまな商品やサービスが巷に溢れている現代において、「なぜお茶を選んだのか?」という明確な根拠を感じなければ、失礼だったり非常識だったり思われてしまうこともあるかもしれません。
ちなみにですが、お茶は仏事のお供え物としてもよく選ばれていたそうです。それだけ聞くと、やはり縁起が悪いと感じてしまいそうですが、健康に気遣いながらお茶をともに飲み、故人のことを偲びたいという想いが込められています。そんなメッセージ性を知ると、縁起が悪いと思わなくなるのは私だけでしょうか。
2.実は、縁起のよい意味合いをもっている?
お茶は弔事の贈り物というイメージがある一方で、縁起がいい意味合いも多くあるため、結婚祝いなどの婚礼行事や長寿祝い・敬老の日ギフトにもよく選ばれています。ここでは、お茶の贈り物におけるポジティブな側面をご紹介します。
おめでたい語呂合わせ
常緑樹である茶の木は、葉を摘み取っても新芽が出てくるため「お芽出たい」という語呂合わせに掛け、縁起のいい贈り物として重宝されています。また、茶の木は根がよく広がり、植え替えすると枯れやすくなります。そのため、結婚が決まった女性に対して家庭を大切にして欲しいという願いを込めて、九州の一部では結納品によく選ばれるそうです。
「福茶」や「昆布茶」といった縁起のいいお茶もあります。福茶は、お湯(若水)に梅干し・塩昆布・豆・山椒などを入れたお茶で、空也上人がお茶に梅干しを入れて振舞い人々の病を治したことに由来し、無病息災への祈りが込められています。昆布は、古くから「よろこぶ」に掛けた縁起物で、昆布の繁殖力の強さにあやかり、子孫繁栄の願いが込められることもあるようです。
「茶柱が立つと縁起が良い」というのもよく知られた謂われです。大黒柱という言葉があるように、柱には物事を支える意味合いがあり、一家の繁栄につながるという考え方があります。また、滅多に見ることのできない希少さが、おめでたいことの前ぶれである吉兆だと捉えられたりもします。
長寿をねがう意味も込められる
お茶、特に新茶はポリフェノールの一種であるカテキンが多く含まれ、抗酸化作用によってがん予防やアンチエイジング作用に効果があると言われています。「お茶好きは老けない」ということわざがあるように、年配の方に対しての長寿をねがう贈り物としても相応しいと感じます。
108歳を祝う「茶寿」という長寿祝いもあります。茶という漢字を分解すると、草冠が「十」と「十」、脚の部分が「八十八」となり、それらを足すと108となることに由来します。このことから茶寿のお祝いにお茶をおくることがあり、88歳の米寿でも八十八夜に摘んだお茶を飲むと無病息災につながるといった謂われもあるそうです。
3.お茶を贈ることの本質的な意味を考える
古くからの習わしや言い伝え、イメージ、語呂合わせなど、お茶を贈るときに考慮すべきことはもちろんあります。しかしながら、贈り物の本質は、相手が喜んでくれること、そして相手を想う気持ちが伝わること。さしたる障壁とならない枝葉末節にこだわらず、そもそも贈り物にお茶をえらぶことの本質的な意味を考えてみます。
健康に配慮した心遣い
お茶には、緑茶に代表される健康茶と呼ばれるカテゴリーがあり、単なるリラックス目的だけでなく、健康効果が期待できるものも多いと言われています。摂り過ぎには注意が必要ですが、緑茶に豊富に含まれるカテキンなどは抗酸化作用によって免疫力の向上や老化の防止に役立つとされています。また、ビタミンなどの成分も含まれているので、整腸作用を促したり美容効果にも効果が期待できたりするそうです。
特に新茶(一般的には4月下旬から5月上旬に摘まれた一番茶)は、ミネラルやリラックス成分のテアニンが多く含まれていることから、より相手の健康を気遣った贈り物にうってつけです。食物の生命力が満ち溢れた「旬」を贈ることは、味わい深いだけでなく人間の季節的な体調の変化に対応すると言われていて、季節感を楽しむ日本人の心にも響きそうです。
苦手な人があまりいない
茶系飲料は、日本における品目別生産量シェアでトップを占め(2023年)、日本人にとって馴染み深く幅広い世代に受け入れられる飲み物です。贈答シーンでは、必ずしも相手の好みを熟知しているケースばかりではありません。苦手な人が少ないお茶の贈り物は、そういった場面での救世主になるとともに、日常的に消費することから貰っても困らない品物であると言えます。
日持ちがよく必要性が高い
お茶を美味しく飲める賞味期限は各メーカーや生産者によっても異なりますが、茶葉の状態であれば半年から1~2年ほどで設定されていることが多いそうです。そのため、さほど日持ちを気にする必要がない贈り物で、家庭で日常的に飲む以外にも、来客時のお茶出し対応などに活用できるため必要性が高く、高級茶であればさらに喜ばれそうです。
優雅な気分になれる
茶葉から淹れたお茶は、日常のひとコマにゆとりを添えてくれます。時間や生活、ひいては人生にゆとりをもたらすと言ってもいいほど、お茶を飲むことは豊かな心を養ってくれるでしょう。人と一緒に飲むことでリラックスしながら会話を楽しむ時間に変えてくれ、人間関係を円滑にするためのツールとしても役立つはずです。
4.お茶のタブーを解消する方法とは
ここまででお茶ギフトの良さを感じていただけたかと思いますが、どうしてもタブーのイメージが払拭できず、贈り物としては使いにくいと感じる人もいるかもしれません。そんな人のために、お茶の贈り物がタブーとされる理由を解消する、もしくは和らげるようなお茶の贈り方をご提案します。
メッセージカードで選んだ理由を伝える
お茶に限らず、贈り物はなぜこれを選んだかという理由を伝えることが大切です。お茶のように縁起が悪いというイメージがあれば避けることもできますが、相手が嫌いなものだったり、すでに余るほど持っていたり、地雷はどこにあるか予測がつきません。そんなときでも、選んだ理由がきちんと伝われば思いやりを感じて嬉しい気持ちが勝るはずです。
結婚祝いや出産祝いの贈り物なら、お芽出たいという語呂合わせによる縁起の良さを伝えたり、自宅に人を招く機会も多くなるのでお茶出し用のストックに使ってほしいと伝えたり、相手の琴線に触れそうな言葉を添えてみてはいかがでしょう。
祖父母や両親への長寿祝いや敬老の日ギフトなら、緑茶で免疫力の向上やアンチエイジング効果が期待できると話したり、関係性次第では「お茶好きは老けない」ということわざを持ち出してみたり、健康をねがう気持ちを伝えてみると喜ばれるかもしれません。
華やかで縁起のいいパッケージをえらぶ
香典返しやお葬式の手土産として用いられるお茶は、パッケージに薄墨で百合や茶葉が描かれていたり、薄紫色や茶系色でまとめられていたりすることが多いはず。大抵は一目で弔事用と分かる雰囲気が滲み出ているので、お祝いやお礼のギフトとしてお茶を贈るなら、花柄や暖色系など華やかなパッケージのものや、縁起の良いモチーフが描かれたものを選ぶとよいでしょう。
気心の知れた親しい間柄にとどめる
おめでたい気持ちを表現したかったり、健康に配慮した気持ちを届けたいと思ったり、お茶ギフトを贈りたいけれども相手がどう感じるか不安。特に目上の方や年配の方であれば気を遣いますよね。そうした不安な気持ちが残るなら、後悔しないようにお茶の贈り物をやめ、気心の知れた親しい間柄にとどめるようにしましょう。
不安なら紅茶やコーヒーに替えてみる
お茶の贈り物は縁起の悪いイメージがあるので避けたいと考えるのであれば、タブー視されることがある緑茶などの日本茶ではなく、紅茶やコーヒーなどの日本特有の謂われと関係ないお茶を選択するアイデアもあります。
特に紅茶は、魔除けの効果があるとされる赤色。紅茶を「幸茶」を書くことで「幸せのお裾分け」という意味合いを持たせることもできます。さらに、古代中国では紅茶が不老長寿の薬であったことから、長寿につながる縁起物としても考えられています。
5.お茶をおくる意味を知ってうまく活用しよう
- お茶の贈り物がタブー視される理由は、イメージによるものが大きい。
- おめでたい意味合いもあるため、結婚祝いや長寿祝いに活用されている。
- 日持ちがよく来客時に使えるため、貰っても困らない贈り物として重宝される。
- 選んだ理由を相手に伝えることが大切で、不安なら紅茶やコーヒーに替えたりする。
お茶の贈り物は、一部でタブー視されることもあるようですが、健康に配慮した心根をさり気なく伝えることができる素敵なプレゼントです。
お祝いやお礼の場面で活躍が見込めるだけでなく、お茶好きだと分かっている人には贈らない手はありません。謂われや習わしなどは理解しつつも、本質的な理由でお茶の贈り物を選んでみてはいかがでしょう。
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