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過酷な夏の猛暑を乗り切ることは、誰にとっても容易ではありません。そういったシーンでは、人から心配されたりねぎらいを受けたりすると、思いのほか気分が楽になったりします。
日本の伝統的な挨拶手法である「暑中見舞い」は、いつもお世話になっている人に心遣いが伝わる夏の便り。ここでは、そんな「暑中」に「見舞う」ための暑中見舞いマナーについて解説していきます。
暑中見舞いの意味と起源
暑中見舞いとは、夏の暑い時期に安否を尋ねるために知人宅を訪問したり、相手の健康を気遣って手紙(挨拶状)やギフト(見舞品)を贈ることを意味します。慣例的には、その手紙や贈り物そのものを暑中見舞いと呼ぶこともあります。
暑中見舞いをなぜ出すのか。それは、お盆の贈答習慣に由来します。かつてはお盆に里帰りするとき、祖先へのお供え物や夏負け(夏の暑さで体調を崩すこと)を防ぐために、食べ物を持参する習慣があり、次第に日頃お世話になっている人に対しての挨拶回りへと変化しました。
また、明治期の改暦前は7月中旬をお盆としていて、暑中見舞いとは似て非なる「お中元」の贈り物が主流になったことにより、暑中見舞いの習慣は簡素的になります。大正時代には、郵便の発達によって手紙で挨拶伺いする形式が一般化するとともに、お盆を過ぎた挨拶手段として活用されるようになりました。
暑中見舞いと聞くと、往年の歌手の代表曲「暑中お見舞い申し上げます」が有名ですよね。現在では廃止となった日本郵便(旧郵政省)の暑中見舞い葉書、通称「かもめ〜る」のCMソングを懐かしむ人もいるのでは。ちなみに、日本郵便では2021年度以降、夏のあいさつに使いやすいデザインの絵入りはがきを販売しています。
暑中見舞いを送るのはいつからいつまでか
暑中見舞いを送る時期は、古代中国で考案された季節の指標、二十四節気でいうところの「小暑」の始まり(7月7日頃)から「立秋」の前日(8月6日頃)とされ、暦が基準になっています。暑中という言葉自体が、二十四節気の「小暑」と「大暑」を指すもので、小暑と大暑を合わせた約30日間となります。
ただし、暦を基準にすると梅雨の最中になることが多く、暑中の気候とかけ離れてしまうため、相手の居住地の梅雨明け以降を目安にすることもあります。つまり、梅雨明けから立秋前(関東なら平年で7月19日頃から8月6日頃)が妥当なラインでしょうか。地域によっては「夏の土用」(立秋前の約18日間)を暑中とする場合もあります。
暑中見舞いの趣旨は、1年で最も暑い時期に相手の健康を気遣うものであり、暑中の時期を過ぎたら「残暑見舞い」とすることがマナーです。残暑見舞いは、暦の上で秋を迎えても、なかなか終わらない暑さを見舞うためのもの。残暑見舞いの時期は、立秋(8月7日頃)から8月末が一般的で、遅くても「処暑の候」(9月7日頃)までに届くように送りましょう。
お中元と暑中見舞いの兼ね合い
本来「暑中見舞い」は二十四節気の小暑と大暑の期間に出すものですが、異なる起源をもつ「お中元」との兼ね合いを考慮する必要があります。特に、贈り物に熨斗紙をつける場合、7月1日~7月15日頃までは「お中元」、7月16日~8月6日頃までは「暑中見舞い」、8月7日~8月末までは「残暑見舞い」の表書きにすることが一般的です。
お中元は、中国道教の「三元思想」に由来し、三元のひとつである「中元」は、旧暦でいうところの7月15日にあたります。これが仏教の「盂蘭盆会(うらぼんえ)」の時期と重なったことがお中元の起源といわれていて、次第に一般庶民の贈答文化として広まったそうです。「お盆」は仏教行事である「盂蘭盆会」の省略系であり、つまりかつては「お中元=お盆」だったのです。
しかしながら、太陽暦(新暦)の採用後は、7月15日をお盆にすると農繁期と重なって支障が出るため、新暦の8月15日をお盆(月遅れ盆)とする地域が多くなりました。そこで現代では、お中元は7月、お盆は8月という習慣が一般的になっているのです。沖縄・奄美地方ではお盆を旧盆の7月としたり、関西地方ではお中元の時期を8月としている地域があったりします。
すなわち、お中元と暑中見舞いは、生まれも育ちも違うまったくの別物。時期についても、お中元は地域差がありますが、暑中見舞いは全国的に同じです。こういった不均衡を整理するために、地域差のある「お中元」を7月1日~15日頃、本来は小暑から立秋までの「暑中見舞い」を7月16日~8月6日頃とすることが多いのでしょう。
暑中見舞いのアイデア
暑中見舞いは、お中元ギフトを贈るほどではないものの、夏のご挨拶をしておきたいシーンで重宝されます。一般的には、挿絵入りのハガキに、相手の健康を気遣う文章をしたためたりします。また、暑中見舞いは冠婚葬祭など形式ばったイベントではないため、遊び心を加えた書体やイラストがよく使われます。
挿絵のアイデアとしては、夏場に見頃を迎える「向日葵」や「朝顔」、夏の風物詩である「花火」や「スイカ」、夏の縁起物として知られる「金魚」や「六瓢箪(むびょうたん)」、暑さ和らぐ涼を感じる「風鈴」や「かき氷」などがあります。市販の絵はがきもありますが、水彩絵の具や色鉛筆などで味のあるイラストを描いてみても面白いかもしれません。
暑中見舞いを機会に、自分自身の近況を報告しても良いでしょう。離れて暮らす友達や恩人に入籍報告や結婚報告をしたり、なかなか会えずにいる祖父母や親戚に妊娠報告や出産報告をしたりすると、メールではなかなか伝わりにくい「あなたを大切に想っています」という温かい気持ちがより伝わるはずです。
双方向のコミュニケーションが取りやすい便利な時代において、せっかく暑中見舞いを送るなら、やはり手書きの手紙がオススメです。文字は人なりと言うように、手紙のような旧来的な方法は個性や人柄が伝わりやすいもの。お中元ギフトを贈りそびれてしまって、暑中見舞いで贈り物をしたい場合も、便箋やメッセージカードを忍ばせると喜ばれるでしょう。
品物を添えるなら何を送るか
暑中見舞いに品物を添えるなら、何を送るのが良いでしょうか。食べ物なら夏バテ解消に一役買ってくれる「うなぎ」や「スイカ」、「しょうが」をふんだんに使ったジンジャーシロップなどもオススメです。スイーツなら見た目にも涼しげな「羊羹」や「ゼリー」、お中元ギフトでも定番の「最中」や「アイスクリーム」があります。
相手の生活に寄り添った品物を添えるなら、夏っぽい絵柄が描かれた「手ぬぐい」や「うちわ」、「扇子」などもおしゃれで気の利いた贈り物になります。また、夏は海水浴やシャワーを浴びる機会が増えるため、肌ケアは欠かせません。「ハンドクリーム」や「ボディクリーム」、「ボディオイル」などは夏場も気の抜けない肌荒れ対策ギフトにもってこいです。
暑中見舞いの書き方・例文
暑中見舞いで使うはがきは、特に決まったルールがあるという訳ではありません。絵はがきでも通常の官製はがきでも問題なく、私製はがきに切手を貼って出しても良いでしょう。また、縦書きでも横書きでも問題ありませんが、目上の人に改まった内容を書くなら縦書き、身近な人に気軽な内容を書くなら横書きを使うことが多いようです。
暑中見舞いの手紙に使うペンも決まりはありません。一般論となりますが、筆ペンやカリグラフィーペンなどで書くとオシャレで味のある印象となり、ボールペンやサインペンで書くと誠実な人柄を印象付けることができます。
暑中見舞いの書き方としては、①冒頭の挨拶、②添え書き文、③日付の順に書くことが一般的です。添え書き文とは、冒頭の挨拶に続く文章のことで、時候の挨拶に始まり、先方の安否を尋ねる言葉、自分自身の近況報告、先方の無事を祈る言葉で締めることが通例です。また、暑中見舞いの文章には、拝啓や前略などの頭語、敬具や謹白などの結語は必要ありません。
まず「冒頭の挨拶」には、「暑中お見舞い申し上げます」や「暑中お伺い申し上げます」という定型文が相応しく、句点(。)は付けないことがルールです。句点をつけない理由は、関係が終わることを連想する「区切り」を付けないためや、読みやすい工夫で使われ始めた句読点が相手を子供扱いして失礼にあたるためなど諸説あります。
「時候の挨拶」は、季節や天候に則した心情を表現した言葉を使い、先方の安否を尋ねる言葉とセットで書くと良いでしょう。例文としては、梅雨明け直後なら「梅雨明けとともに本格的な夏がやってまいりましたが、お変わりなくお過ごしでしょうか。」、夏真っ盛りなら「厳しい暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでございましょうか。」などがあります。
「自分自身の近況報告」には、元気に過ごしていることを伝える文や、身の回りで起きたニュースなど、相手が安心したり面白いと思いそうな内容を書きましょう。文例としては「おかげさまで家族一同元気に過ごしております。」などがあります。手紙の趣旨がお礼ならその旨を書き、お知らせでプチサプライズを届けても良いかもしれません。
「先方の無事を祈る言葉」は、いわゆる「結びのあいさつ」として添える一言で、相手の健康を気遣った思いやりあるフレーズで締めくくりましょう。例文としては、「暑さ厳しき折柄、くれぐれもご自愛ください。」や「まだしばらくは厳しい暑さが続きますので、お体を大切にお過ごしください。」などがあります。
最後に「日付」を記すことになりますが、「○年○月○日」など詳細な日付で書かず、「令和○年 盛夏」など年号+月の異称を書くことが慣例です。「盛夏」とは梅雨明けから立秋までの時期を表す季語で、夏の終わりに差し掛かっているなら「晩夏」でも良いでしょう。また、はがきの表面が絵柄で埋め尽くされているのであれば、日付の後に自分の住所や氏名を記述しても問題ありません。
暑中見舞いの品物に掛ける熨斗
暑中見舞いで品物を贈る場合は、熨斗と水引きが印刷された「熨斗紙(のしがみ)」を掛けることがマナーとなります。贈り物を強調したかったり手渡しする場合は、包装紙でラッピングした上から掛ける「外のし」、控えめに贈りたかったり郵送する場合は、品物の箱などに直接掛ける「内のし」を使います。
水引きとは紅白や金銀などの帯紐のことを指し、暑中見舞いのような季節の挨拶には「蝶結び(花結び・もろわな結び)」の祝水引を使います。帯紐の色は基本的に紅白としますが、水引きの白色が印刷できない場合、白を金色で代用することもあります。
熨斗紙の上段には、「表書き」と呼ばれる贈答品の意味や名目を記載します。暑中見舞いの表書きは「暑中御見舞」が一般的で、相手が目上の人なら「暑中御伺」とすることがマナーと言われています。また、立秋を過ぎたら「残暑御見舞(御伺)」とします。熨斗紙の下段には、「名入れ」と呼ばれる贈り主の名前をフルネームで記入しましょう。
おわりに
暑中見舞いは、お中元よりも馴染みの薄い挨拶手段ですが、暑さ厳しい夏に相手を思いやる気持ちが伝わる昔ながらのコミュニケーションツールです。ご無沙汰している人との縁をつなぎとめるためにも、暑中見舞いというカタチで夏の便りを送ってみてはいかがでしょう。