INDEX
① 松濤美術館(しょうとうびじゅつかん)
奥渋谷エリアの散策は、渋谷を代表するアートスポットの「松濤美術館」で待ち合わせてスタートします。松濤(しょうとう)は、かつて旧佐賀藩主・鍋島家の領地だったことが有名で、台地に広がる高級住宅地としても知られます。 渋谷駅からは文化村通りを進み、松濤文化村ストリートの脇道を入るとすぐに建物が現れます。神泉駅から美術館を目指すなら、レンガで囲われた路面の案内標示を探してみてください。 松濤美術館は、企画展を中心として渋谷区に関連する公募展、絵画展、音楽会や美術教室などが行なわれる住宅街の落ち着いた美術館。哲学の建築家と称される白井晟一氏が設計した建物は、優美な景観によって期待感が煽られます。 取材日は、濃いコーヒーを飲むための小さなカップを集めた「デミタスカップの愉しみ」展が開催されていましたが、新型コロナウィルス対策の一環で事前予約制、枠はすべて埋まっていて敢え無く断念となりました。展覧会VRが公開されているので、ご興味ある方はご覧になってください。 松濤美術館から鍋島松濤公園までの道のりには、2021年4月に惜しまれつつ閉店した「ELEZO HOUSE(エレゾハウス)」を発見。会員制のジビエ料理店としてその名をとどろかせた名店は、セカンドラインの「ELEZO GATE(エレゾゲート)」が虎ノ門ヒルズにオープンしています。② 鍋島松濤公園(なべしましょうとうこうえん)
松涛美術館から戸栗美術館に向かう道のりでは、心地よい緑を感じられる「鍋島松濤公園」に立ち寄ってみてください。大型の遊具や清潔なトイレがあり、水車がまわる池のほとりで佇んでみると清々しい気分に浸ることができます。ちなみに、公園の名称はこの地にかつてあった茶園「松濤園」に由来しているそうです。 鍋島松濤公園の北側でひときわ目立つ池は、渋谷界隈でも数少ない湧き水からなる湧水池。公園の近くからは縄文時代の遺跡も発見されたそうで、当時から貴重だった台地の湧き水が、紀州徳川家の下屋敷や旧佐賀藩主・鍋島家が領地を敷いた由縁にもなっているといいます。 鍋島松濤公園の北側出口をでると、「松濤駒場ギャラリー散歩」という石造りのマップを発見しました。これは渋谷駅から松濤や駒場を通る散歩コースの案内図で、実は渋谷区のいたるところに設置されています。地図中の「観世能楽堂」は、2017年に銀座へと移転されています。③ 戸栗美術館(とぐりびじゅつかん)
戸栗美術館では、実業家の戸栗亨が収集した東洋陶磁器などが展示されています。美術館の周辺には、世界中のVIPに愛されるフランス料理店「シェ松尾」や、まるでギャラリーのような高級住宅が居並び、自然と背筋が伸びる緊張感があります。 取材時は「古伊万里の御道具-茶・華・香-」展が開催されていて、展示品は約80点と少なめですが、陶器好きな著者には大満足。豪華絢爛な逸品から慎ましやかな器まで、余すところなく鑑賞を楽しめました。館内で不定期にたいている古伊万里の香炉は必見です。 1階ラウンジから臨む景観には、手入れの行き届いた日本庭園。よくよく注意して見てみると、なんと大砲が設置されています。旧佐賀藩はかつて長崎港の警備を担当していて、海外列強に対抗するため日本で最初の鉄製大砲鋳造を行なったそうです。定かではないものの、展示品は現存する唯一の佐賀藩製カノン砲と考えられています。 戸栗美術館を後にして住宅街を進むと、小さな神社を発見しました。この大山稲荷神社は、五穀豊穣の神様である宇迦之御魂命(うかのみたまのみこと)が祀られ、創建は戦国時代にも遡るといいます。神の使いである狐が鳥居の前に凛々しく鎮座しています。④ Bunkamura ザ・ミュージアム
次に巡る美術館は、東急百貨店に隣接する複合文化施設「Bunkamura(文化村)」にある「ザ・ミュージアム」。近代美術を中心に、先見性を持った展覧会が開かれる人気の美術館です。取材時は、ポーラ美術館コレクションの「甘美なるフランス」展が開催されていました。 美術館で展示を楽しんだ後は、地下1階の広場で開催されていた「ボン・マルシェ」を覗いてみました。可愛らしいカートには様々なショップが出店していて、幅広いジャンルのアイテムが並びます。著者がお土産に購入したのは、栗のパウンドケーキ。ストールや食器など、秋飾りを見つけても素敵ですね。 ランチやお喋りがてらに休憩するなら、Bunkamuraの1階ロビーラウンジがオススメです。また、花の魔術師と形容されるパリのアーティスト、「エルベ・シャトラン」が手掛けるフラワーブティックは、傍を通るとつい立ち止まってしまうほど魅力的な花々にトキメキを感じます。⑤ Galettoria(ガレットリア)
美術館巡りに区切りが付いたところで、松濤ランチと行きましょう。松濤文化村ストリートを進むと現れる「Galettoria(ガレットリア)」は、松濤では外せない有名店。ガレットは、そば粉をクレープのように焼いたフランス・ブルターニュ地方の郷土料理で、アートな気分にぴったりなグルメです。 お店の扉を開くと、フランスの家庭を思わせるノスタルジックな雰囲気が広がり、デートにも喜ばれそうな可愛らしくも趣のある空間。電飾や食器棚にいたるまで、細部に可愛いが詰め込まれた内装を、料理の待ち時間に楽しんでみてはいかがでしょう。 ガレットでは満腹にならないと思いきや、チーズやサラミなど具材が詰まっているので意外とお腹が膨れます。セットに付くドリンクは、プラス料金なしでアルコールも選ぶことができます。カフェオレボールに入ったシードルは、つい勢いよく飲んでしまいそう。⑥ MEALS ARE DELIGHTFUL
お腹が満たされたところで神山町に向かい、奥渋谷のメインストリート「神山通り」を散策します。神山通りには、スタイリッシュな本屋「Shibuya Publishing & Booksellers」、すしやのたまごサンドで有名な「CAMELBACK」、グローバル情報誌が手掛ける「The Monocle Shop」など、魅力的なショップが軒を連ねます。 人気店を横目に神山通りの深層部へ歩みを進めると、愛知県瀬戸市の陶器ブランド「マルミツポテリ」が運営する「MEALS ARE DELIGHTFUL」というビルが現れます。建物は、神山通りの路地を入った場所に位置するため、見逃さないように注意してみてください。 「食器によって食事を楽しくする」というコンセプトの下で、マルミツポテリの3つの直営店が入ったビルは、さながら食の複合施設。1階の「DISHES」は食器のお店、2階の「Meals」は食堂カフェ、3階には「富ヶ谷食事研究所」という食に関する講座や実習などを開催するスペースになっています。 1階では、マルミツポテリの食器ブランド「STUDIO M’」と「SOBOKAI」の温かみのある器を手に入れることができます。2階のカフェでゆっくりと過ごしながら、自宅で使う食器やプレゼントなどを吟味してみても素敵です。3階の富ヶ谷食事研究所は、著者の夫が生徒として足繁く通っていたこともあり、料理を楽しみながら食器との調和を考えたりすることができます。⑦ & CHEESE STAND
MEALS ARE DELIGHTFUL のほど近くには、チーズ工房が併設されたチーズ専門店があります。出来たてのフレッシュチーズが味わえる「& CHEESE STAND」は、井の頭通りにあるチーズスタンドの姉妹店。家庭でも日常的に楽しめるチーズ、オリーブオイル、はちみつなどが販売されています。 ショーケースには、コショウや山椒が練り込まれたチーズやモッツァレラなど、個性的なチーズがずらりと並びます。自宅で晩酌することが増えた昨今、酒のつまみはストック必至。私もお土産に「東京ブッラータ」と「さけるモッツァレラ」を購入しました。 せっかくなら甘いスイーツもオーダーして、店先のベンチでひと休憩しても良いかもしれません。ブッラータシュークリームは、イチオシのお散歩デザート。サッパリ系のチーズと、少し酸味のあるクリーム、ほのかに甘いフルーツソースが病みつきな一品です。⑧ ミュゼ・ドゥ・ショコラ・テオブロマ
& CHEESE STAND のはす向かいには、ミスターカカオ土屋公二氏が手掛ける「ミュゼ・ドゥ・ショコラ・テオブロマ」というショコラティエがあります。ドラマ化された漫画「失恋ショコラティエ」のチョコレートを再現販売したブランドとしても有名です。 ボンボンショコラやタブレットなど、こだわり抜かれた品揃えは、まさに店名のごとく「チョコレートの博物館」。焼き菓子、マカロン、キャラメル、コンフィチュール、ドラジェなどラインナップが豊富なので、何度来ても楽しめるオススメのスイーツショップです。⑨ 宇田川遊歩道
代々木公園沿いの井の頭通りと神山通りの間には、およそ1kmにわたる歩行者専用道路「宇田川遊歩道」があります。車両が行き交う神山通りは並んで歩きづらいため、話しながら散歩を楽しみたいならこの遊歩道を利用しましょう。 宇田川遊歩道には、メニューのない大人カフェ「ROSTRO(ロストロ)」や、古民家をリノベーションした北欧風のコーヒーショップ「FUGLEN COFFEE ROASTERS TOKYO」など、歩き疲れた人の足休めにもピッタリなオシャレカフェがあります。コーヒー片手に余暇を楽しむ穴場の憩いスポット、時間があれば訪れてみてください。⑩ SENSUOUS(センシュアス)
宇田川遊歩道の中ほどには、熱帯魚・観賞魚品のアクアリウムショップ「SENSUOUS(センシュアス)」があります。店内には熱帯魚や金魚、本格的なアクアリウムグッズやミニサイズのグラスアクアリウムまで揃えられ、熱帯魚飼育を始めたい初心者にも上級者にもオススメです。 グラスアクアリウムは、ワークショップ(基本予約制)も開催されているため、興味がある人と一緒に訪れてみても楽しい休日になります。店舗は向かい合った2つの建物で構成されていて、本格的なショッピングだけでなく、コンパクトな水族館のようでデートにも喜ばれそうです。 SENSUOUS の先には、フラワーショップ「LADY BUGS(レディーバグス)」が宇田川遊歩道に彩りを添えます。ドライフラワーをメインにした専門店で、インテリアになるリースやスワッグが所狭しと並びます。ドライフラワーにできる生花が店頭に置かれているので、季節の移ろいも感じられる素敵なショップです。⑪ 国木田独歩住居跡(文化人の碑)
宇田川遊歩道を後にして、NHK放送センターと渋谷税務署に挟まれた緩やかな上り坂を進みます。奥渋谷まち歩きは、マニアックな穴場スポットで締めることにしましょう。まずは坂の中腹にある、うっかり見落としてしまいそうな文化人の碑が「国木田独歩住居跡」です。 渋谷には多くの文化人が住んでいた歴史があり、国木田独歩もそのひとり。自然豊かだったこの地に住み、名著「武蔵野」を残しました。今では木碑だけが佇んでいる場所を眺め、かつての風景を想像してみる時間を過ごしてみてはいかがでしょう。⑫ 二・二六事件慰霊像
国木田独歩住居跡の先、無国籍通り(コスミックスロープ)の手前には、悠々たる観音像が高くそびえるスポットがあります。こちらは、昭和初期に国家改造を目指す陸軍青年将校らが起こしたクーデター未遂事件「二・二六事件」の慰霊碑。当時の東京陸軍刑務所の跡地でもあり、陸軍青年将校らが銃殺にあった地です。 二・二六事件慰霊像には、あまり知られていないものの、昭和史を語る上で外せない出来事が細やかに記されています。リニューアルされた渋谷公会堂(LINE CUBE SHIBUYA)と渋谷区役所からほど近くに位置するため、歴史に興味がある方は足を運んでみてください。おわりに 奥渋谷散策のフィナーレは、渋谷駅に向かう途中、新しく生まれ変わった北谷公園(KITAYA PARK)で旅の余韻に浸り帰路についても良いかもしれません。ブルーボトルコーヒーなどキッチンカーが横につけ、公園のベンチに座りながらホッと一息つくことができます。 筆者にとっては久しぶりの奥渋谷さんぽでしたが、昔と比べて少しずつ景観が変わり、「ここにはこんなお店があったよね」と新旧の比較を楽しみながら歩いて回ることができました。奥渋谷は、アートと街並みに刺激を受けながら充実した休日を過ごせ、疲れた心身にもパワーチャージができるエリアです。
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